第10話
『いただきます』
僕はダイニングテーブルに座り、朝食を食べていた。
紗理奈は、洗濯物や部屋の掃除でバタバタしている。
いつもと変わらぬ朝だ、新婚の頃は朝から二人で朝食を囲い、色々と会話していたが・・・
『ごちそうさま』
食器をキッチンに片付け、洗面所で歯を磨き、愛娘を見てから家のドアを開けた。
『行ってきまーす』
部屋の奥からは、何の返事もなく僕は家を後にした・・・
普段から、朝はあまり会話をする事が無いが、今日は特に冷たい感じがしていた。
最寄りのバス停に着き、いつもの時間にバスが来た。
世田谷通りは、朝の時間帯、バスの本数も多く、意外に便利だ。
混雑したバスの中で、僕は窓の外を見ながら、昨夜の事を思い出していた。
近々電話してみようかな・・・
鞄の中家から携帯電話を取り出すと、紗理奈からラインが届いている。
僕は恐る恐るその内容を確認した。
『・・・今日は何時に帰ってくるかな?ちょっと話がしたい。』
たった一行の、その他に何もない文面だった。
全身に悪寒が走り、僕は吊り革をギュッと握りしめた。
『21時には帰るよ、何かあったのかい?』
僕は、平然を装い、普通に返信した。
それが間違いだった事に、後で気付く事になる。
僕の送ったラインは、すぐに既読になったが、その後は全く返信が無かった。
不安になった僕は、渋谷に着いた時に電話を掛けたが、紗理奈は電話に出ない。
不安だけが感情を支配し、足取りが重かったが、僕は山手線に乗り込んだ・・・
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