第8話
僕は、タクシーを拾うために茶沢通りまでフラフラと歩いていた。
丁度、茶沢通りに出た所で、一台のタクシーを拾う事が出来た。
『ご乗車有難う御座います』
運転手は明るく声を掛けてきた。
『三軒茶屋経由で、世田谷通りを環状7号線方面へ向かって下さい』
『了解しました』
後部座席に座り、おもむろに財布からメモを取り出し、携帯電話に番号を登録した。
すぐさま、ラインの友達申請が・・・
『あ、もう登録していてくれたんだ』
男とは単純である、妻や彼女が居ても、そんな小さな事が嬉しく感じてしまう。
僕は、どこか後ろめたさを感じながらも、瞳ちゃんの名前を変えて登録してしまった。
せめて普通に、登録すれば良かったのに・・・
『お客様、そろそろ到着致しますが・・・』
『あ、その辺で停めて下さい』
僕の自宅は、環状7号線を越えて少し行ったところの賃貸マンションに住んでいる。
近くには大型スーパーもあり、とても便利な場所だけど駅から遠いのが残念である。
そのスーパーの上層階には、誰もが知っているアイドルや著名人が住んでいるらしい、そんな事だけが自慢の場所だ・・・
不動産会社に勤めている為か、いつかはマイホームが欲しい。
『どうも、ありがとう』
お釣りとメモをポケットにしまい、タクシーを降りて自宅に向かった。
マンションの3階、妻と子供を起こさないように、そっと家の鍵を開けた。
静まり返ったリビングのソファーに、無造作にジャケットを脱ぎ捨て、僕はそのまま横になってしまった。
財布から取り出したメモを、女性物のハンカチと共にポケットに入れたままだった・・・
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